デビュー

毎日、走り回りである。
走り回りというよりは、動き回りである。
所詮は’人にも抜かれるカブ’である。
オーバーホールというよりも、バラして洗浄をし再度組み立てたものである。
全開でも20km/hがいいところだ。
(自転車にも抜かれるのである)

ただ’エンジンと仲良くなる’という事を、覚えることは出来た。
バイク(特に小排気量)に乗ったことのある方はご存知であろう。
天候などに影響される、同じ天候でも始動後の操作により調子が変わる。

組長の愛車の場合、絶対性能が低いので、顕著に分かることが出来るのだ。

調整についても、少しずついじってみる。
ポイントの調整、キャブレターの調整。
動かすごとに反応が違う。

大変、おもしろい。

ただそれでも、全開時のスピードは大して変わらない。
(あたりまえである)

そんな事をしているうちに、組長は中学2年になっていた。
秋の事である。誕生日がきた。
なんと、バイクやの兄ちゃんが中古のエンジンを持ってきてくれた。
それまでに貰ったプレゼントの中で、一番うれしかった。
(なんでじゃ。安い奴じゃのー。)

事故車の物、ということでエンジン自体の状態はそこそこである。

さっそく、積み替え作業である。
工具も事あるごとに、兄ちゃんが持ってきてくれた。

作業も終わり、走ってみる。
雲泥の違いである。
「すごいパワーだ!今、俺の愛車は、もしかして日本一早いのでは・・」

それまで、ちょっとした登りだと’押さない’とダメであったが、スイスイッと行けるのである。

これまでは、空き地までは押していった。
(組長宅から空き地までは登りであった)
帰りはエンジン停止状態で、勢いで帰っていた。
パトロールのおまわりさんも、状況が分かっていたので’黙認’してくれていたのである。

しかしエンジン快調で、普通の性能を持った’愛車’を手にした組長は思ったのである。
「普通の道を走りたい!!!」
今、考えれば’普通の道’など面白くも無い。
’空き地で走っている方が幸せ’と思うが、そんな事分かるはずがない。

当然カブにはナンバーはついていない。
まずはここからである。
ボール紙を調達し、例のおっちゃんのカブを見に行く。
ナンバーを写すのだ。
手書きである。
おなじ数字だとバレる、と思い1つ違いとした。
(完全なバカである。ばれるジャロ!!)

「完璧だ!!」

公道デビューである。

2004年8月8日