N島自動車のオヤジ
組長がIBCに入る前の話しである。
組長の友人でN島と言う人間がいる。
そいつの実家は自動車の販売・修理をやっている。
関係ないがN島は今、その会社を継いで社長業をしている。
その、オヤジの話だ。
オヤジさんは、若い頃どっかのバスメーカーに所属しており、そこで板金を覚えたそうだ。
昔のバスを知らない人も多いだろうが、ルーフ・エンド部分が丸みをおびていたのだ。
非常に’かわいい形状’なのである。
オヤジさんはその部分を’パンパン’とハンマー1本で作り出す仕事をしていたという話だ。
その後’自分には板金の才能がある’と判断し、独立を決心したとの事。
保護観察士の資格も持っている、という組長にはある意味’身近’な人であった。
その技術、なにしろ凄いのである。
ある日、組長が遊びに行っている時、トライアンフの旧車をお客が持ち込んできた。
右のフェンダーがグッチャリである。
オヤジさん「こりゃ、修正はむりだな!!」
お客「えー、この車の部品なんか今時、無いですよねー、どーしよ!!」
オ「いいよ、なんとかするから。おいてきなー」
で、仕事が始まる。
まず、鉄板を鋼材屋(組長の先輩)から持ってこさせる(まあ、買うんだけども)。
つぶれていない左側からボール紙とCO2溶接機の棒を使い、巧みに形紙とゲージを作る。
そして、その形紙を反転して、鉄板に写し、金バサミでジョキジョキと切り始める。
文字通り、ジョキジョキなのである、ボール紙を切っているみたいだ。
そして、ハンマーとあてがねで’パンパン’と叩き始める。
みるみる形状が現れていく。
組長も’まね’をして、鉄板をたたいて見た。
(もちろんフェンダーではない。ちがう鉄板だ!)
形状が出来るどころか曲がってもいかない。
ベコベコになってしまっただけである。
オヤジさんに言われた。
「○○(組長の名前)!鉄板はな。叩いて’曲げる’んじゃないんだ。板を局部的に叩いて、薄くして延ばすんだよ」
組長「??・・・??」である。
オ「板金だけじゃなく、鉄板の成形ってのはな、板を延ばしていって形状を作るんだ。」
組長は気がついた。
粘土の板を使って形状を作る場合、引っ張って形を作る。
板を縮ませようとすると、当然しわになる。
これは、全てのプレス成形に言えることでもある。
しかしながら、叩くだけで形状が出来るってのは不思議である。
よーく見ると、同じ場所は叩いていない。
「どこを叩くかなんでわかるのー??」聞いた見た。
オ「そりゃ、経験だなー」
数日後、遊びに行くとみごとに形状が出来ていた。
表面にはパテがうすーくあてられ、鉄板が透けて見えるくらいだ。
腐食が発生している部分は切り落とし、新しい鉄板が継ぎ足され形状が作られて、とにかくピカピカである。
あとは、塗装待ちであった。
当時、N島自動車には小○○という塗装の達人もいた。
この人は後年’××ーオート’というカスタムカーの製作で有名なショップの設立者の一人になっていった。
こだわりの人で、1mm幅の数本のストライプを’塗装’でやってしまうという、えぐい人である。
この人の塗装もすばらしいのだ。
磨きを掛けていないのにもかかわらず、塗装仕上がり面が’濡れている’のである。
正月の御節料理に入っている’豆の煮物’の表面なのである。
(シワシワ豆の地域もあるらしいが)
ピッカピカなのだ。
ワックスを掛けたくない(汚れてしまう!)くらい、の仕上がりになる。
数日後、お客への引渡しである。
お客のおっさんは’感動’をし、目にうっすらと涙が見えているくらいである。
この時、組長も’まだまだ教えてもらえる事(盗める事)があるのでは’と思い、「しばらく、手伝わせてください」と言った。
オヤジさんは「じゃまになるからなー。・・・まあ、バイトだな。来週から来い!」と言われた。
この後のN島自動車の事は、シークレットな内容を書きたいので、パスワードエリアに移動することにする。
2004年8月7日